「速報・詳解 会社法改正動向」第9回会議 速報 野村直弘/野村賢太郎
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 野 村 直 弘
弁護士 野 村 賢太郎
1 第9回会議の開催
2025年12月24日、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第9回会議が開催された。法務省のウェブサイトには、その議題等、議事概要および資料が掲載されている[1]。
第9回会議では、「株主総会の在り方に関する規律の見直しに関する論点の検討(二読)(2)」として、①その他(会社法316条2項に規定する調査者制度の見直し、株主総会の招集手続等に関する検査役の選任の申立権者の見直し)、「企業統治の在り方に関する規律の見直しに関する論点及びその他の論点の検討(二読)」として、②指名委員会等設置会社制度の見直し、および③役員等の責任に関する規律の見直しが検討事項として審議された。これらの検討事項は、すでに第4回会議および第5回会議でいわゆる「一読」として審議されたが、その議論の結果を踏まえ、第9回会議で「二読」として更なる検討が行われた。なお、②の審議に当たっては、参考人に対するヒアリングも実施された。
上記の検討事項のうち、①は第8回会議の速報で紹介したため[2]、本稿では、②と③について、上記ウェブサイトに掲載された「部会資料9」に沿って、主に第5回会議の「部会資料5」との違いに着目して解説する。
2 指名委員会等設置会社制度の見直し
指名委員会等設置会社制度の見直しについては、①指名委員会の権限の見直し、②監査委員会の権限等の見直しおよび③モニタリング・モデル[3]をより強く指向する会社のための機関形態としての見直しが議論されていた(詳細は、第5回会議の速報・詳解を参照[4])。
「部会資料9」では、第5回会議の議論を踏まえ、これらの検討事項が、以下の⑴~⑶のとおり再編されている。
⑴ 検討の方向性
モニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態としての見直しについては、第5回会議でさまざまな意見がみられ、迅速に成案を得ることは容易でないと思われる。そのため、「部会資料9」では、そのような大きな観点からの見直しは中長期的な課題とし、今回の部会においては、あくまで現時点で具体的な支障や不都合が生じている点に限定してその是正をするための見直しを検討することが提案されている。
⑵ 指名委員会等の権限の見直し
指名委員会等設置会社において取締役会全体で取締役の過半数が社外取締役である場合には、取締役の選任・解任議案の内容に係る指名委員会の決定の内容を取締役会決議により変更できる旨の規律を設けることの是非が議論されていたが、第5回会議において、肯定的な意見が複数あった一方で、そのニーズ・必要性に対する疑義や、制度が複雑になることへの懸念も示された。そこで、「部会資料9」では、この規律を設けることを現時点で正当化するに足りる具体的な支障や不都合が生じているかが検討事項とされた。
また、第5回会議において、指名委員会の権限の見直しをする場合には、報酬委員会の権限についても同様の規律を設けるべきとの意見があったことを踏まえ、「部会資料9」では、その見直しをすることを現時点で正当化するに足りる具体的な支障や不都合が生じているかを含め、その是非が検討事項とされた。
⑶ 監査委員会の権限等の見直し
監査委員会の権限等の見直しについても議論されていたが、「部会資料9」では、第5回会議における議論を踏まえ、表1記載の規律を設けることの是非が検討事項とされた。
(表1)「部会資料9」で提案された監査委員会の権限等に関する規律の概要
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規律① 監査委員会の議事録の閲覧または謄写(以下「閲覧等」という。) |
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指名委員会等設置会社の取締役のうち、執行役を兼ねている取締役および業務執行取締役は、監査委員会の議事録の閲覧等をすることができない。 |
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規律② 監査委員の選定および解職手続 |
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株主総会の決議によって取締役を選任するに際して、指名委員会、監査委員会および報酬委員会の委員に選定されることが予定されている取締役については、その旨を株主総会参考書類に記載しなければならない。 |
表1の規律①については、第5回会議において、監査委員でない取締役による監査委員会の議事録の閲覧等を制限することに賛成する意見が多数あった一方で、対象となる取締役の範囲に関しては、複数の異なる意見がみられた。取締役会は監査委員会を監督することが期待されており、執行役を兼ねていない取締役や業務執行取締役でない取締役には議事録の閲覧等を認めるべき場合があり得るとの意見がみられたことを踏まえ、「部会資料9」では、その立場から規律①が提案されている。
表1の規律②は、第5回会議において、各委員会の委員が不当な人事上の不利益を受けることを防止する効果が一定程度期待でき、すでに行われている実務でもあること等を理由に賛成する意見が多数あったことから、「部会資料9」でも提案されたものである。これに関連して、第5回会議の議論を踏まえ、(a)株主総会参考書類に記載された者以外が各委員会の委員となった場合に、その旨およびその理由を事業報告に記載しなければならないとすることや、(b)監査委員を解職された者または辞任した者は、その後最初に招集される株主総会に出席して、意見を述べることができるとすることも提案されている。
なお、常勤の監査委員を選定しない場合に常勤の補助者の設置を義務付けるべきかについても議論されていたが、第5回会議において、その必要はないとする意見が多数あったため、「部会資料9」では、この規律を設けることは提案されていない。
3 役員等の責任に関する規律の見直し
⑴ 責任限定契約制度の見直し
業務執行取締役等である取締役にも責任限定契約の締結を認めるべきであるかが議論されていたが、第5回会議の議論を踏まえ、「部会資料9」では、見直しの許容性が認められるかについても検討する必要があると留保した上で、表2記載の規律を設けることの是非が検討事項とされた。
(表2)「部会資料9」で提案された責任限定契約制度に関する規律の概要
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規律① 責任限定契約の対象者の範囲 |
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株式会社が責任限定契約を締結することができる相手方に業務執行取締役等である取締役および執行役を加える。 |
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規律② 利益相反取引により生じた責任の適用除外 |
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次に掲げる取引をした業務執行取締役等である取締役または執行役の会社法423条1項の責任については、責任限定契約による責任の限定の対象外とする。 ア 会社法356条1項各号(会社法419条2項において準用する場合を含む。)の取引[5] イ 株式会社と当該者との利益が実質的に相反する取引(アに掲げる取引を除く。) |
表2の規律②は、第5回会議において、(ア)業務執行取締役等である取締役の会社法356条1項各号の競業取引および利益相反取引や、(イ)形式的にはこれに該当しなくとも、実質的に利益相反のある取引については、責任限定の対象外とすべきとの意見が複数みられたことによるものであるが、「部会資料9」では、(イ)について、実質的な内容のほか、規定の具体的な文言についても法制的な観点を含めて引き続き検討する必要があることが指摘されている。
⑵ 株主代表訴訟制度の見直し
株主代表訴訟の要件を厳格化すべきかが議論されていたが、第5回会議において、濫用的な訴えが蔓延しているといった立法事実はない等として見直しに否定的な意見が複数あったことも踏まえ、「部会資料9」では、株主代表訴訟の要件の見直しは行わないことが提案されている。
4 次回以降の会議の見通し
第10回会議は、2026年1月28日に開催される予定である。
以 上
[1] https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00322.html(2026年1月20日最終閲覧)
[3] 業務執行者に対する監督を中心とした取締役会を基本とする企業統治の構造をいう。
[4] 第5回会議 速報:https://code.shojihomu.jp/document/019ae7ec8624230e0a53e754
第5回会議 詳解:https://code.shojihomu.jp/document/019b8c0d99e38f61b72f99ef
[5] 会社法425条または426条の株主総会決議または定款の定めに基づく取締役等による事後的な責任の一部免除制度については、同趣旨の規律を設けないことが想定されている。



