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解説記事

「速報・詳解 会社法改正動向」第11回会議 速報(中間試案のたたき台の公表)② 坂本佳隆/山田智希/神尾啓介

2026/04/01坂本佳隆(弁護士)山田智希(弁護士)神尾啓介(弁護士) アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業(https://www.amt-law.com/)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 坂 本 佳 隆

弁護士 山 田 智 希

弁護士 神 尾 啓 介

 

1 第11回会議の開催

 2026年2月25日、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第11回会議が開催された。法務省のウェブサイトには、その議題等、議事概要および資料が掲載されている[1]

 第11回会議の議題は、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台について」である。同会議では、中間試案のたたき台として「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案のたたき台」(以下「中間試案のたたき台」という。)が示され、過去10回にわたる会議における審議内容を踏まえた論点と今後の方向性が整理された上、審議が行われた。具体的には、①株式の発行の在り方に関する規律の見直し、②株主総会の在り方に関する規律の見直し、③企業統治の在り方に関する規律およびその他の規律の見直しが検討事項として審議された。

 この中間試案のたたき台は、これまでの議論を理解し今後の会社法改正に向けた方向性を展望する上で有用な資料であることから、前稿[2]に引き続き、本稿においてこれらの検討事項の概要を解説する。前稿では、中間試案のたたき台のうち主に株主総会に関する部分(「第2部 株主総会の在り方に関する規律の見直し」)について取り上げたが、本稿では、株式の発行に関する部分(「第1部 株式の発行の在り方に関する規律の見直し」)およびコーポレートガバナンスに関する部分(「第3部 企業統治の在り方に関する規律およびその他の規律の見直し」)について見ていくこととする。

 

2 株式の発行の在り方に関する規律の見直し

 株式発行の在り方に関する規律の見直しについては、第2回会議において、①株式の無償交付の対象範囲の見直し、②株式交付制度の見直し、③現物出資制度の見直しが検討事項とされ(詳細は、第2回会議の速報・詳解を参照[3])、第6回会議において、第2回会議を踏まえ、各検討事項についてより具体的な提案がなされた(詳細は、第6回会議の速報・詳解を参照[4])。

 中間試案のたたき台では、第2回会議および第6回会議を踏まえ、各検討事項に関する規律のたたき台が示されている。以下では、当該たたき台の概要を示すとともに、第6回会議に提出された「部会資料6」からの主な変更点等を簡単に整理する。

 

⑴ 株式の無償交付の対象範囲の見直し

 株式の無償交付の対象範囲の見直しについては、第2回会議において、現行会社法の下では株式の無償交付の対象が上場会社の取締役または執行役に限定されていることに鑑み(会社法202条の2)、国内外の優秀な人材の獲得・維持、エンゲージメントの向上等の観点から、使用人等[5]に対する株式の無償交付を認める場合の基本的な枠組みが提案され、審議されていた。また、第6回会議では、第2回会議における審議を踏まえ、かかる場合の規律を含む具体的な枠組みが提案され、審議されていた。

 そして、中間試案のたたき台では、第2回会議および第6回会議での審議を踏まえ、以下の表1のとおり、株式の無償交付の対象範囲に関する具体的な枠組みのたたき台が示されている。

 

(表1)中間試案のたたき台で示された株式の無償交付の具体的な枠組みの概要

 

【A案】

【B案】

枠組み

株主総会の決議を要件とせずに取締役会の決議のみで使用人等に対する株式の無償交付を可能にすることとした上で、有利発行規制に服するとする規律

株主総会の決議により使用人等に対する株式の無償交付を可能にすることとした上で、有利発行規制に服しないとする規律

規律内容

【株式無償交付の要件】

① 上場会社は、取締役会の決議により使用人等に対する募集株式の割当てに関する方針(法務省令で定める事項)を定めた場合において、当該定めに従いその発行する株式またはその処分する自己株式を引き受ける者の募集をするときは、会社法199条1項2号および4号に掲げる事項を定めることを要しない。この場合において、当該上場会社は、㋐当該定めに従い当該募集に係る株式の発行または自己株式の処分をするものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは同項3号の財産の給付を要しない旨、㋑募集株式を割り当てる日を定めなければならない。

 

【株式無償交付の要件】

① 上場会社は、②の規定による定めがある場合において、当該定めに従いその発行する株式またはその処分する自己株式を引き受ける者の募集をするときは、会社法199条1項2号および4号に掲げる事項を定めることを要しない。この場合において、当該上場会社は、㋐当該定めに従い当該募集に係る株式の発行または自己株式の処分をするものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しない旨、㋑募集株式を割り当てる日を定めなければならない。

② 上場会社は、株主総会の普通決議によって、㋐当該上場会社が募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しない旨を定めてその発行する株式またはその処分する自己株式を引き受ける者の募集をする場合における募集株式を引き受ける者(使用人等に限る。)の範囲、㋑㋐に規定する場合において、使用人等が引き受ける募集株式の数の上限その他法務省令で定める事項を定めることができる。

【有利発行規制】

  • ①に掲げる事項を定める場合において、募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しないこととすることが募集株式を引き受ける者に特に有利な条件であるときは、会社法201条の規定は適用しない(株主総会での決議を要する。)。
  • 募集株式と引換えにする金銭の払込み等を要しないこととすることが募集株式を引き受ける者に特に有利な条件であるときは、取締役は、会社法199条2項の株主総会において、当該条件でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

【有利発行規制】

  • なし。

【その他両案に共通の規律】

  • ①に掲げる事項を定めた場合における会社法199条2項の規定の適用については、同項中「前項各号」とあるのは、「前項各号(2号および4号を除く。)ならびに①㋐および㋑」とする。この場合においては、会社法200条および202条の規定は、適用しない。
  • ①の規定による[6]株式の発行により資本金または準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。

 

 上記の【A案】と【B案】の位置づけについて、第6回会議では、上記各案の規律の採否および運用方法が検討事項とされていたところ、中間試案のたたき台では、第6回会議での審議を踏まえ、【A案】および【B案】の規律をいずれも設ける考え方もある旨が示されている。

 また、第6回会議では、【B案】における株主総会の決議を普通決議とする理由について検討がなされた。中間試案のたたき台では、第6回会議での審議を踏まえ、①使用人等という特定の対象者に対する株式の無償交付の場合には、類型的にみて、株式会社がこれによる便益を受けることが期待されるとともに1株当たりの価値が下落(希釈化)して既存株主の利益が害されるおそれが低いことから、このような場合に限定して有利発行規制を緩和するという考え方や、②使用人等に対するエクイティ(株式および新株予約権)の付与については、大盤振る舞いの危険があることから、これを防止するために株主の判断を求めることを必要とするという考え方があると整理された。

 なお、第2回会議では、無償交付される株式の労働基準法上の「賃金」該当性が検討事項とされていたが、第2回会議での審議を踏まえると、これは会社法制ではなく労働法制の問題であることから、中間試案のたたき台では、株式の無償交付の具体的な枠組みを決定するに当たって別途整理が必要である旨示されるにとどまった。

 

 次に、株式の無償交付の対象範囲の見直しに関連するその他の検討事項に関して、第6回会議では、①株式報酬の発行に当たり広く採用されている現物出資構成[7]について上記のような株式の無償交付の具体的な枠組みの規律を及ぼすことの是非、および②新株予約権の行使時の金銭の払込み等を要しない新株予約権の発行の対象範囲を拡大することの是非が検討事項とされていた。中間試案のたたき台では、第6回会議での審議を踏まえ、①現物出資の構成について、表1の具体的な枠組みの規律を及ぼす【A案】およびこれを及ぼさない【B案】が示され、②使用人等に対して新株予約権を発行する場合について、表1の具体的な枠組みの規律を及ぼした上で、新株予約権の行使に際して金銭の払込みまたはその行使に係る新株予約権についての会社法236条1項3号の財産の給付を要しないものとする規律が示された。

 

⑵ 株式交付制度の見直し

 株式交付制度の見直しについては、第2回会議において、現行法の下では、買収会社が被買収会社をその子会社とするために、被買収会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対し、対価として買収会社の株式を交付する場合に限定されていることに鑑み(会社法2条32号の2ならびに第5編4章の2および第5章4節)、株式を対価とする買収の円滑化に向けた制度の利用可能範囲の拡大や手続の簡素化の観点から、以下の項目が検討事項とされた。

① 株式交付の対象となる場面として子会社の株式の追加取得をする場合も含めることの是非

② 株式交付の対象となる会社に持分会社や外国会社を含めることの是非

③ 株式交付の手続として株式交換親会社における、反対株主の株式買取請求権を認めないとすること、および債権者保護手続を廃止することの是非

 そして、中間試案のたたき台では、第2回会議および第6回会議での審議を踏まえ、以下の表2のとおり、株主交付制度に関する規律のたたき台が示されている。

 

(表2)中間試案のたたき台で示された株式交付制度の概要

 

たたき台の内容

株式交付の対象となる場面

⑴ 子会社の株式を追加取得する場合を株式交付の対象とすることに関し、次のいずれかの案によるものとする。

【A案】
子会社の株式を追加取得する場合を一般的に株式交付の対象とする。

【B案】
次のアもしくはイに掲げる場合のいずれかまたは双方を株式交付の対象とする。

ア (ある会社を新たに子会社化するための)株式交付計画において、当該株式交付の効力発生日の後に株式交付子会社の株式を追加取得する旨を定めた場合における当該追加取得する場合

イ 子会社の株式を所定の割合(総株主の議決権の3分の2、10分の9または全部とすることを想定している。)まで追加取得する場合

⑵ 株式会社を会社法施行規則3条3項2号および3号[8]に掲げる場合における子会社とする場合を株式交付の対象とするものとする。

株式交付の対象となる会社

⑴ 持分会社を子会社とする場合を株式交付の対象とするものとする。

⑵ 外国会社を子会社とする場合を株式交付の対象とするものとする。

株式交付の手続

株式交付親会社における債権者保護手続を廃止するものとする。

 

⑶ 現物出資制度の見直し

 まず、検査役の調査の制度の見直しについては、第2回会議において、現行の制度が厳格であるために生じうる現物出資をすることに対する萎縮効果を排除する必要性が指摘され、第6回会議において、事前規制としての検査役調査制度については株主総会の特別決議による検査役の調査省略を認めるべきとの意見がみられた。

 中間試案のたたき台では、第2回会議および第6回会議での審議を踏まえ、株主総会の特別決議により現物出資財産について会社法199条1項3号の価額を定めた場合には検査役の調査が省略され、この場合には、取締役は、同条2項の株主総会において、現物出資財産の評価の方法、評価額その他の現物出資財産について定められた同条1項3号の価額が相当である理由を説明しなければならないとする規律が示された。

 

 次に、不足額塡補責任の見直しについては、第2回会議において、①現物出資者[9]、取締役および証明者[10]の不足額塡補責任の緩和、②不足額塡補責任における責任の範囲が検討事項とされ、第6回会議では、第2回会議の審議を踏まえ、各検討事項についての具体的な規律が提案された。

 中間試案のたたき台では、第2回会議および第6回会議での審議を踏まえ、以下の表3のとおり、不足額塡補責任のたたき台が示されている。

 

(表3)中間試案のたたき台で示された不足額塡補責任の概要

 

【A案/α案】

【B案/β案】

ア 現物出資者の責任要件

【A案】

現物出資者は、募集事項の決定の時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に著しく不足する場合において、取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役または執行役)と通じて募集株式を引き受けたとき〔または現物出資者が現物出資財産の評価のために重要な事項について故意もしくは重大な過失により株式会社に対して虚偽の説明をしたとき〕に限り、下記イの責任を負う。

【B案】

現物出資者は、募集事項の決定の時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に著しく不足する場合には、下記イの責任を負う。

イ 現物出資者の責任内容

【α案】

現物出資者は、上記アの要件を満たすときは、株式会社に対し、決定時不足額[11]を支払う義務を負う。

【β案】

株式会社は、上記アの要件を満たすときは、現物出資者に対し、決定時不足額を払込金額で除して得た数(その数に一に満たない端数がある場合にあっては、これを切り捨てる。)の株式を当該株式会社に無償で譲渡することを請求することができる。

ウ 取締役等の責任

【A案】

取締役等および証明者は、募集事項の決定の時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に著しく不足する場合には、株式会社に対し、決定時不足額について、立証責任の転換がされない過失責任を負う。

【B案】

取締役等および証明者は、募集事項の決定の時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に著しく不足する場合には、株式会社に対し、決定時不足額について、立証責任の転換がされた過失責任を負う。

 

 なお、中間試案のたたき台では、第6回会議での審議を踏まえ、表3に記載の項目のうち、イ【β案】に関して、現物出資者が既に株式を売却していた場合についてどのように考えるか等の問題が引き続き検討事項とされた。また、ウ【A案】については、第6回会議における、取締役等および証明者に立証責任の転換がされた過失責任を負わせる理由はなく、むしろ、これによって現物出資が阻害されると考えられるとの指摘を踏まえ、中間試案のたたき台にて新たに追加された規律である。

 

 次に、現物出資制度の見直しに関連するその他の検討事項に関して、第6回会議では、①新株予約権の行使の際の現物出資および②新設立の際の現物出資に表3アおよびイの規律を及ぼすかが検討事項とされていた。中間試案のたたき台では、第6回会議での審議を踏まえ、①については及ぼすものとし、②については及ぼさないものとする規律が示された。

 

3 企業統治の在り方に関する規律等

 企業統治の在り方に関する規律等については、第5回会議において、①指名委員会等設置会社制度の見直し、②役員等の責任に関する規律の見直しが検討事項として審議され(詳細は、第5回会議の速報・詳解を参照[12])、第9回会議において、各検討事項の更なる検討および規律の提案がなされた(詳細は、第9回会議の速報・詳解を参照[13])。

 中間試案のたたき台では、第5回会議および第9回会議を踏まえ、上記①、②に加え、③事業報告等および有価証券報告書の開示の合理化についてのたたき台が示されている。以下では、当該たたき台の概要を示すとともに、第9回会議に提出された「部会資料9」からの主な変更点等を簡単に整理する。

 

⑴ 指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬委員会の権限

 中間試案のたたき台では、指名委員会等設置会社における指名委員会の権限について、第9回会議での審議を踏まえ、取締役の選任および解任に関する議案の内容についての指名委員会の決定の内容を取締役会の決議により変更することができる旨の規律を設けることの是非が主な論点として示されている。この点については、指名委員会等設置会社において、少人数の取締役で構成される指名委員会が自らの権限等を自己の保身のために行使する等して、経営トップの人事権を掌握し、特定の経営陣を恣意的に排除するといった事例等がみられるとしてこうした規律を設けるべきとの意見がみられた一方で、本来は取締役会による指名委員の選定および解職ならびに執行役の選任および解任の手続によって解決するべき事例であり、その方法によることなく、指名委員会の決定内容の変更のみをする必要性には疑義があるとの意見もみられた。

 こうした議論状況もあり、中間試案のたたき台では、上記の規律を設けるとした場合に、取締役会全体で取締役の過半数が社外取締役であることに加え、適用場面を限定する必要性の有無が検討事項とされている。また、上記の規律を設けるとした場合における株主に対する通知義務や指名委員会の株主総会における意見陳述権の規律を設ける想定であることも、あわせて示されている。

 さらに、中間試案のたたき台では、指名委員会等設置会社における報酬委員会の権限について、上記の規律を設ける場合に、報酬委員会にも同様の規律を設けるとする【A案】、現行法を見直さない【B案】が示されている。

 なお、各検討事項についての議論の詳細については、第9回会議の速報・詳解も参照されたい。

 

⑵ 指名委員会等設置会社における監査委員会の権限等

 指名委員会等設置会社における監査委員会の権限等については、第5回会議において、①取締役による監査委員会の議事録の閲覧または謄写、②監査委員の選定および解職手続について検討事項とされ、第9回会議において、①監査委員会の経営からの独立性および監査の実効性の観点から、執行役を兼ねている取締役による監査委員会の議事録の閲覧または謄写を制限する規律、②不当な人事上の不利益を受けることを防止する観点から、各委員会[14]の委員に選定されることが予定されている取締役について、その旨を株主総会参考書類への記載を要求する規律が提案された。

 中間試案のたたき台では、第9回会議での審議を踏まえ、以下の表4のとおり、監査委員会の権限等のたたき台が示されている。

 

(表4)中間試案のたたき台で示された監査委員会の権限等の概要

 

たたき台の内容

取締役による監査委員会の議事録の閲覧または謄写

指名委員会等設置会社の取締役のうち、執行役を兼ねている取締役および業務執行取締役は、監査委員会の議事録の閲覧または謄写をすることができない。

各委員会の委員の選定・解職

株式会社は、株主総会の決議によって取締役を選任するに際して、各委員会の委員に選定されることが予定されている取締役については、その旨を株主総会参考書類に記載しなければならない。

かつ、各委員会の委員に選定予定の取締役として株主総会参考書類に記載された者が予定された委員に選定されなかった場合または当該委員を解職されもしくは辞任した場合および株主総会参考書類に記載されていなかった者が各委員会の委員となった場合には、その旨およびその理由を事業報告に記載しなければならない。

 

 なお、中間試案のたたき台では、第9回会議での審議を踏まえ、監査委員会の議事録の閲覧または謄写を認めない取締役の範囲について、①監査委員でないすべての取締役とするとの考え方や、②監査委員でない取締役のうち、社外取締役以外の取締役とする考え方も示されている。また、監査委員の選定・解職については、第9回会議において、取締役選任時の株主総会参考書類への記載のみならず、事後の開示が重要であるとの指摘がなされたこと、および株主総会参考 書類に記載された予定と異なる取扱いが生じた場合に、常に事後的に事業報告に記載すべきであるとの意見がみられたことを踏まえた規律となっている。

 加えて、中間試案のたたき台では、第9回会議での審議を踏まえ、常勤の監査委員を選定していない指名委員会等設置会社においては、①常勤補助者[15]を設置しなければならない旨または②監査委員会が常勤補助者の設置の要否を決定することができる旨の規律を設ける考え方も示されている。

 

⑶ 責任限定契約制度の見直し

 責任限定契約制度の見直しについては、第5回会議において、①業務執行取締役等である取締役に責任限定契約の締結を認めることの是非、②利益相反取引により生じた責任のうち、責任限定契約による限定の対象外となる範囲が検討事項とされ、第9回会議において、各検討事項について具体的な規律が提案された。

 中間試案のたたき台では、第9回会議での審議を踏まえ、以下の表5のとおり、責任限定契約に関する規律のたたき台が示されている。

 

(表5)中間試案のたたき台で示された責任限定契約の概要

 

たたき台の内容

責任限定契約の締結主体

株式会社が責任限定契約を締結することができる相手方に業務執行取締役等[16]である取締役および執行役を加える。

責任限定契約が限定する責任の対象

株式会社と業務執行取締役等である取締役または執行役との利益が相反する状況にあるときに行われた行為に基づく当該取締役または執行役の会社法423条1項の責任については、責任限定契約による責任の限定の対象外とする。

 

 なお、業務執行取締役等である取締役に責任限定契約の締結を認めることの許容性について、第9回会議において、最低責任限度額を低いものにしつつ、配当として実質的な報酬を得る等の方法で、責任限定契約制度が潜脱的に利用されることの懸念が示されていた。中間試案のたたき台では、第9回会議の審議を踏まえ、責任の一部免除または限定に関する制度全体として、潜脱のおそれに対する追加的な手当ての要否を引き続き検討事項とすることが示された。

 

⑷ 上場会社における事業報告等[17]と有価証券報告書の関係性の整理

 中間試案のたたき台においては、第9回会議および第10回会議での審議を踏まえ、事業報告等および有価証券報告書の開示の合理化について、①上場会社が電子提供措置開始日までに事業報告等の開示事項のすべてを記載した有価証券報告書を提出した場合には、事業報告等を作成することを要しないとする規律[18]、②会計監査人が①の有価証券報告書について金融商品取引法に基づく監査をした場合には、会社法に基づく会計監査人の監査をすることを要しないとする規律が示されている(詳細は、第10回会議の速報を参照[19])。

 また、第10回会議では、有価証券報告書と事業報告等の開示事項の共通化を徹底することが重要であり、事業報告等固有の部分が開示事項として必要であるか精査し、必要であれば有価証券報告書の開示事項に追加すべきであるとの意見が複数みられたことから、中間試案のたたき台では、事業報告等の開示事項の見直しについて、引き続き検討事項とすることが示されている。

 

4 次回以降の会議の見通し

 第12回会議は2026年3月18日に開催され、第12回会議の速報は別途公開予定である。

以 上



[5] 当該上場会社の使用人またはその子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役もしくは使用人をいう。

[6] 【B案】においては、「①に規定する定めに基づく」との規律である。

[7] 金銭債権を使用人等に付与した上で、従業員等に募集株式を割り当て、引受人となった使用人等に当該金銭債権を現物出資財産として給付させることにより、株式の発行または自己株式の処分をする取扱いのことをいう。

[8] 具体的には、当該株式会社の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が40%以上であり、かつ、自己および自己の意思と同一内容の議決権を行使すると認められる者等の計算において所有している議決権数(以下「自己所有等議決権数」という。)の割合が50%以上である等、自己が他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在する場合(会社法施行規則3条3項2号)、ならびに当該株式会社の議決権の総数に対する自己所有等議決権数の割合が50%を超えていることに加え、当該株式会社の取締役会等の期間の構成員の総数に役員等の数の割合が50%を超えている等、その他の自己が他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在する場合(同項3号)をいう。

[9] 募集株式の引受人のうち、現物出資財産を給付する者をいう。

[10] 現物出資財産について定められた会社法199条1項3号の価額が相当であることについて証明をした者をいう。

[11] 募集事項の決定の時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に著しく不足する場合の不足額をいう。なお、決定時不足額に関しては、上記の場合の不足額または会社法209条1項の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた会社法199条1項3号の価額に不足する額のいずれか低い額とする考え方がある(取締役等についても同様である。)。

[13] 第9回会議
  速報:https://code.shojihomu.jp/document/019bd9a6a6d2cc37fe92f901(詳解記事は近日公開予定)

[14] 指名委員会、監査委員会および報酬委員会をいう。

[15] 監査委員会の職務を補助すべき常勤の取締役または使用人をいう。

[16] 会社法2条15号イに規定する業務執行取締役等をいう。

[17] 計算書類および事業報告ならびに連結計算書類をいう。

[18] なお、いわゆる総会前開示に関する近時の議論の動向については、下記を参照されたい。
塚本英巨=山田智希「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案にかかるパブリックコメントの結果の公表――有価証券報告書の総会前開示に関する制度整備に向けた動向」(商事法務CODE、2026年3月19日)
https://code.shojihomu.jp/document/019cff5a9309f2868117a021

[19] 第10回会議
  速報:https://code.shojihomu.jp/document/019c3191b4ab7625c24741de(詳解記事は近日公開予定)

執筆者

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    弁護士

    坂本佳隆

    アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2012年~2013年東京大学法科大学院非常勤講師。2016年米国University of Southern California (LL.M.)終了。2016年~2017年米国ロサンゼルスのReed Smith法律事務所勤務。2017年~2019年に法務省民事局へ出向し、令和元年改正会社法の企画・立案を担当。2019年カリフォルニア州弁護士登録。主に、M&A及び会社法関連業務を扱っている。

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    弁護士

    山田智希

    アンダーソン・毛利・友常法律事務所シニア・アソシエイト

    2017年東京大学法学部卒業。文部科学省勤務を経て、2018年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2024年英国King's College London, University of London (LL.M.)。2025年英国弁護士(Solicitor, England and Wales)登録。2025年ライデン大学航空宇宙法研究所客員研究員(航空宇宙法)。コーポレートガバナンス・グローバルコンプライアンス、国内外のM&A・組織再編を専門に扱う。また、宇宙・航空・海洋分野を中心とする国際法・国際取引法関連、公共調達や行政紛争等の行政関連案件に積極的に取り組んでいるほか、交通・物流分野や教育分野をはじめ、インダストリーに特化した法務面のアドバイスにも従事している。

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    神尾啓介

    アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2023年名古屋大学法学部卒業。2025年弁護士登録(第二東京弁護士会)。主に、事業再生、コーポレート、M&A、紛争解決に関する業務を広く取り扱う。

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    * 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用